日本医学サイエンスコミュニケーション学会
第1巻 第1号

<総説>

日本医学サイエンスコミュニケーション学会:発足の経緯と第1回シンポジウム

中山健夫1)、孫大輔2)、北澤京子3)、加藤和人4)、秋山美紀5)、市川衛6)7)、木内貴弘8)、原木万紀子9)

1) 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 2) 鳥取大学医学部 地域医療学講座 3) 京都薬科大学 4) 大阪大学大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学分野 5) 慶應義塾大学 環境情報学部 6) 広島大学医学部(公衆衛生) 7) 一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会 8) 東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻医療コミュニケーション学分野 9) 埼玉県立大学保健医療福祉学部 健康開発学科

医学サイエンスコミュニケーション:専門家と市民をつなぐ

北澤 京子

京都薬科大学

日本のサイエンスコミュニケーションは、専任人材の養成やサイエンスカフェの開催、インターネットを含む各種メディアの活用を通じて行われてきた。だが、欠如モデルに基づく、専門家から市民への一方通行のコミュニケーションにはもとより限界がある。双方向の参加型コミュニケーションが指向されるようになってきており、医学分野でも研究への患者・市民参画が重視されている。特に医学では、よりよい問題解決のために専門家(医療従事者)と市民(患者)の対話が不可欠であることから、双方向のコミュニケーションの発展が期待される。

医学サイエンスコミュニケーション:倫理・政策・患者参画

加藤 和人

大阪大学大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学分野

医学サイエンスコミュニケーションが対象とする領域はとても広く、サイエンスに関する情報発信や市民との対話だけでなく、倫理的課題や政策に関する社会的な議論も含まれる。本稿では、医学サイエンスコミュニケーションを活性化させるために筆者が重要と考える3つのことを述べる。それらは、1)学校教育や社会の中での活動などの多様なアプローチの必要性、2)医学やライフサイエンスの倫理的課題について市民や多様な非専門家を交えた議論を行うことの重要性、および、3)患者・市民が主体的に研究に関わる患者・市民参画という活動が医学サイエンコミュニケーションを実践する場となる可能性である。これらの活動に医学研究者、患者、市民、人文社会科学の研究者など多様な人々が積極的にかかわり、医学研究が社会に理解されつつ進んでいくことが期待される。

医学研究成果の社会への発信―研究機関の工夫とメディア報道-

秋山 美紀

慶應義塾大学 環境情報学部

医学研究を行う大学等の機関は、プレスリリースを発行し研究成果を社会に伝えることに努めている。しかし実際にメディア等を介して社会に報道される研究成果は限られている。大学等研究機関が医学研究の成果をどのように発信しているのか、またメディアはどのような基準で情報の取捨選択と報道をしているのかを把握することを目的に、2つの調査を行った。特に配信数が多い大学は、研究内容をわかりやすく正確に伝える工夫に加えて、配信のタイミングも工夫しており、研究者とメディアをつなぐ広報専従者を置くなど組織体制も充実していた。一方メディア記者のインタビューからは、内容のわかりやすさや正確性に加えて、自媒体の読者のニーズに合致している内容かどうかが、報道の判断の決め手になっていることが示唆された。研究者とその所属機関は、研究成果が一般市民の生活にどのように関連するかといった視点も持ちながら、正確でわかりやすいコミュニケーションを行う必要がある。

「医学研究をわかりやすく伝える研究」から見えてきた医学サイエンスコミュニケーションのポイント

市川 衛

広島大学医学部(公衆衛生)・一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会

医学サイエンスコミュニケーションの目的のひとつは「医学研究の成果や専門知見を、一般の人に適切かつ理解できる形で示すこと」であり、その達成を目指す場合に意識すべき現象の一つが「知識の呪い(curse of knowledge)」だ。特定の業界に専門的な経験や知識を持つ、いわゆる「専門家」が一般の人とコミュニケーションをとる際に「ずれ」が起きやすくなることを指す。本シンポジウムでは知識の呪いを背景としたコミュニケーションのズレの可視化と、その解決を目指した「令和3年度 日本医療研究開発機構『国民に向けた医学系研究の情報発信』」の取り組みについて紹介する。

Copyright © Japanese Association of Healthcare Communication